今日のトリビアより。
『麻酔薬には正確な作用機序のわかっていないものもある』

そう言えば、麻酔薬に関してちょこっとかじったけど、正確な作用機序は聞いていないなぁ。
アセチルコリンがどう、活動電位がどう、と言った大まかなことは習いましたが。
そんな訳で今日は少し真面目な話を。
お題は『末梢性筋弛緩薬/局所麻酔薬』に関して。
(注:院試験に落っこちてる私程度の知識なので、信頼性に欠けるかもしれません)

運動神経における筋収縮はこんなメカニズムで行われます。
1)運動神経にNaイオンが流入。
2)KとNaのバランス(細胞外にはNaが多く、細胞内にはKが多い)が崩れる。
3)2)によって脱分極が起こり、活動電位(信号みたいなもの)が出る。
4)シナプス小胞が刺激され、アセチルコリンが遊離する。
5)アセチルコリンがNM受容体を刺激し、そこにあるNaチャネル(扉みたいなもの)が開く→Naイオン流入。
6)1)みたいな脱分極がここでも起き、活動電位(信号)が発生。
7)これが横行小管を通り、筋小胞体を刺激。
8)これによって筋小胞体からCaイオンが遊離→筋収縮が起こる。

本当は再分極とか神経膜における疎水性・親水性作用とかありますが、難しいので割愛。

で、これを遮断してしまおうというのが末梢性筋弛緩薬です。
上記の過程で邪魔できそうなのは、以下のところ。
・5)の段階でNM受容体の刺激をさせないようにする。
・8)の段階で筋小胞体からCaイオンが出ないようにする。

こういったことをする薬物で有名なのが、ツボクラリン・スキサメトニウム・ダントロレンです。

まずツボクラリンは天然品。
5)の段階でアセチルコリンと拮抗してNM受容体への刺激を減らします。
でも天然品なだけに、これ以外の要らない作用(副作用)とかが結構あります。
スキサメトニウムは同じくNM受容体に作用。
これはNM受容体をオーバーロードさせて、アセチルコリンを効かなくさせます。
つまり、アセチルコリンで刺激しても活動電位が発生しなくなります。
(正式に言うと、NM受容体の持続的脱分極を起こす)
最後にダントロレンは筋小胞体からのCa遊離を抑制します。
よく悪性症候群に対して処方されているので、医療系の学生ならご存知でしょう。

スキサメトニウムとツボクラリンの特徴は、ネオスチグミンのようなコリンエステラーゼ(コリンを分解する酵素。アセチルコリンとかはこれで分解されて活性を失う)阻害薬との併用時。
ツボクラリンの場合、拮抗するアセチルコリンの絶対数が増えるので麻酔効果は下がります。
スキサメトニウムの場合、自身がコリンなので分解されにくくなり結果として麻酔効果が上がります。
(当然アセチルコリンの量も増えるが、ツボクラリンと違って作用が『拮抗』ではないので影響は少ない)
と、この程度までのことが薬剤師国家試験で聞かれてきます。

ついでにもう少しだけ。
『1)の部分は邪魔できないの?』と言うところを掘り下げていきましょう。
ぶっちゃけ言うと、ここも邪魔できます。
と言うか、ここを邪魔すると死ねます。
この段階を激しく邪魔するのがテトロドトキシン。フグ毒のあれです。
ここを邪魔すると全ての筋肉が弛緩します。
なので、意識がクリアーなまま身体が動かず呼吸も出来なくなるのです。
・・・何と言うか、凄く苦しんで死ねそうですね。
逆にここを激しく活性化させる物質もあります。
その物質名はアコニチン。トリカブトに含まれているアレです。
これを誤って服用してしまうと、興奮で神経によってコントロールされている臓器・筋肉に異常が起きます。
まぁ、本来は来るはずではない様々な神経から命令が行けば異常が起きるのも当然のこと。
結果として、嘔吐・失禁・脱糞などを起こして、ひどければ心臓にも異常が起きて死んでしまいます。

・・・それにしても、私は何でこんなマニアックなところまで書いているのだろう?

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